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山野邸プロジェクト【令和2年度選定】

[地域に親しまれた料亭の趣を活かして]
 山野邸は数寄屋造りの伝統的意匠が残る、築100年を超える元料亭の京町家です。一時は解体の話もありましたが、山野暢子さん自らが維持管理の担い手になりたいとご親族(所有者)に提案され、国内外のホテルでサービス業に従事してきた経験を活かし、建物の一部で宿泊施設を運営してこられました。さらに、母屋の座敷などを開放することで、日本の伝統文化や京町家の暮らしの文化を体験してもらい、より多くの方々に京町家に触れてほしいと思われるようになりました。

【令和2年度選定】山野邸
■工事内容:屋根、外壁修復
■工期:令和3年10月~4年2月

[集う場としての改修]
 この改修では、お客様が気軽に立ち寄れるように、母屋にはこれまでなかったバーカウンターを設け、宿やお座敷へは玄関から廊下を通って各部屋へご案内できるように動線が配慮されています。美しい意匠を堪能できるお座敷は様々な利用ニーズに応えられる空間です。
ファンドを活用して外壁、玄関周りの外構や傷んでいた大屋根を修繕されました。ファンド申請時は外壁の開口部を改修する予定はありませんでしたが、飲食等を伴う営業をするには一定の開口部を設ける必要があり、伝統的意匠を考慮しつつデザイン変更をされました。
[活用者より]山野暢子さん
 親戚が大切に守ってきた老舗料亭だった建物を宿泊施設に転用して7年が経ちます。当初は大型京町家の活用は課題が多く取り壊し寸前まで話が進んでいました。しかし京町家の織りなす美しい街並みを見て育ちそこで暮らし培った美意識や町家への愛着があったからこそ『残す』という選択肢しか考えませんでした。
近年、ブランド商品と化した町家が姿を変えていくのを見るたびに本質が失われていく寂しさを感じていました。確かに町家を維持管理していくのは手間も費用もかかるので資本のある方へ流れていくのは仕方ない事なのかもしれせん。私自身も個人の力は限界があり、ファンドで皆様のお力添えをいただけた事は本当に大きな助けとなりました。感謝申し上げます。今後も一つでも多くの京町家が健全に残していく事に私自身も微力ながら注力していきたいと思っています。
 

              COLUMN
  [町家博士 大場ファンド委員長より]

    京町家まちづくりファンド委員長
         大場 修 氏
      立命館大学 衣笠総合研究機構 教授


 山野邸は料亭として建てられた京町家で、築100年は経つといいます。京都の五花街にはたくさんのお茶屋の建物が立ち並んでいますが、明治大正期に遡る料亭は市内に少なく、しかも山野邸はその伝統的な姿を内外観によく留めていて貴重です。特に、京都近代の数奇屋大工の技が遺憾なく発揮された室内は、京町家の建築文化の粋が感じられます。
このたびの改修で主屋の表側にバーカウンターが新設され、上質な室内意匠がこれまで以上に身近に触れることができるようになりました。外観に新設された飾り窓は、閉鎖的になりがちな料亭建築の内と外とを結ぶ接点になるはずです。
改修後は、座敷を活用して町家の暮らし文化の発信にも取り組んでいかれるとのこと。「京町家まちづくりファンド」がお手伝いした今回の山野邸改修事業は、料亭文化の扉を広く外へと開く契機となればと願っています。
[文化に触れるきっかけづくりを]
 日本文化や京都の昔ながらの風習に触れてほしい、近所の寺子屋として地域の方々や子供達に向けた文化教室を開催したいと山野さんはお考えです。過去にも開催されている茶道・生け花のお教室、ご実家の京料理店との連携をはじめ、多彩な企画が進行中です。地域の方々に加え、国内外からの旅行者にとっても、京町家に施された手仕事や四季折々のさりげない室礼の美しさに触れる場となるでしょう。また、かねてより山野さんがお手伝いされている、下御霊神社還幸祭の御神輿の担ぎ手や、行列に参列している子供達の休憩所としても開放される予定です。

※この記事の内容は記録集に記載しています。

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